
Newcomer
Newcomer Introduced by 山口祥平(大丸松坂屋百貨店 アートバイヤー)
アートに宿る深い魅力を伝えたい。
作品に込められたアーティストの魂を、
ART365が見いだします。
スペシャル対談 裕人礫翔 Hiroto RAKUSHO
『日本美を、世界へ、未来へ』
箔は金属を紙のように薄く伸ばしたもので、屏風や障壁画の「地」、漆器や帯の装飾などに使われる。いわば脇役だった箔を主役にして作品を制作してきたのが裕人礫翔だ。箔を知り抜くアーティストに、伝承の技から飛躍する経験を聞いた。

裕人礫翔Hiroto RAKUSHO
[Artglorieux GALLERY OF TOKYO]

裕人礫翔が可能にした
「箔が主役」の新しい表現
裕人礫翔は京都・西陣織に用いられる箔工芸を営む家に生まれ、金箔・銀箔に触れて育った。きものの流通の仕事を経験してから、家業を継ぐ。箔工芸士として仕事をするうち、生活様式が変わってきものを着る人が減り、西陣織の需要も少なくなった。伝統技術が失われることに危機感を抱いた裕人は、40歳になるのをきっかけにアーティストとして生きることを決意し、家業を弟に譲った。作品のテーマは「箔を主役にすること」。伝統的な技術に新しく考案した技を加えて箔の可能性を広げ、現代的な表現を生み出した。光を反射する箔は月と同じだと、一貫して月をモチーフにしている。箔の金属的な輝きに陰りやぼかしなどのニュアンスを自在に与える、現代に琳派を継ぐアーティストである。

漆黒の宇宙空間に流れる「心」を
色とりどりの「箔絵具」で表す
この作品は、小山宙哉の漫画『宇宙兄弟』とコラボレーションしたシリーズのひとつ。宇宙飛行士を目指す南波六太と日々人の兄弟が画面に登場したことで、裕人礫翔が繰り広げる超絶の技が親しみやすく感じられる。画面いっぱいに広がる星雲のような表現は、箔を粉末にして日本画の岩絵具のように使う手法で描かれている。宇宙空間を描くのに箔を使うのは裕人ならではの発想。兄弟が無重力空間で軽く指先を触れ合わせて遠くを見ている姿と、この「星雲」は見事に融合している。裕人は作品が置かれる空間やそこで出される料理までが、アート体験と考えている。日本のものづくりの力を信じる裕人礫翔が、世界に発信する作品に注目していきたい。


2025年2月
裕人礫翔Hiroto RAKUSHO
[Artglorieux GALLERY OF TOKYO]
1962年京都・西陣に生まれる。父であり京都市伝統産業技術功労者の西山治作に箔の技術を学ぶ。2002年に自身のブランド「裕人礫翔」を設立して、創作活動を本格的に行うようになる。一方で、文化財のデジタルアーカイブ制作事業に参加。箔のエイジングを再現する技法を完成し、特許を取得した。2006年に国宝「風神雷神図屏風」を高精細デジタルプリントと独自の箔技術で複製し、京都・建仁寺に奉納。寺院や城などの障壁画を複製するプロジェクトや、海外の美術館向けの作品複製プロジェクトにも協力している。インテリア装飾の分野も手がけ、国内国外で活動中。デザイナーやアーティストとの共同制作も多数ある。経済産業省認定伝統工芸士。